ゆーすけのブログ

思いつき小説

接点

  外資系超高級ホテルの会場を借り切ってそのパーティは行われていた。
  エントランスからの雰囲気からして違う。まさに非日常の体現。目を見張るような調度品の数々とさながら摩天楼のような外観、一流のスタッフとまるで自分との格差を思い知らされるようだ。
  早くも帰りたくなった。
  憂鬱が音をたててやってくる。

  そもそもこのパーティは日本のお偉いさん方が主催する日米企業間交流が表向きの目的ではあるが、いってみればなんてことはないロビー活動的な要素の強いなんでもありのパーティだ。

テレビでしか見たことがない大物政治家、財界人、起業家、果てはアーティスト、文化人、芸能人etc.
とんだ場違いだ、しかし、男のくせに壁の花になるわけにはいかない。なんとしてもフリィップ氏に近づかなければ。

まずはフリィップ氏を見つける必要がある。
彼の外観的特徴は資料にて目に穴があくほど確かめた。

しかしいない。どこにも。
この時ばかりは流石に焦る。この夜景もシャンデリアもシャンパンも用はない。
私はフィリップ氏に会いに来たのだ。

少し抵抗があったが近くにいた人物に話かけてみることにした。
「フィリップ氏ですね、あの人はだいたい遅れてくるんです。でもいつもスピーチをするからわかると思いますよ」
ありがとう、との矢先に名刺交換。サラリーマンの習わし。

結局壁の花状態になってるところで半ば諦めたところにフィリップ氏は登場した。

「みなさま、このたびお忙しい中お集まりいただきありがとうこざいます。今回フィリップグループ会長のフィリップ・ゲラーさまから一言いただけるようです。ではみなさまご静聴よろしくお願いします」

 やっとおでましですか、待ちわびてましたよ。

  生でみるフィリップ氏は小柄ながら、威厳と優しさを兼ね備えていて、僧侶のような落ちつきでありながらエネルギーの塊のようであった。

  スピーチの内容は日米の交流に飽き足らずこれからは発展途上国をみなさまのお力でどんどん発展のサポートをしていきましょうという、極めてシンプルなモノだった。

  こうして要約だけすると味気ないが、フィリップ氏は3分に一回笑いを入れて来たり、かと思えばビジネスの話になったり、日本のどこが好きかを話したりと、非常に多岐にわたる。
  特筆すべき点はスピーチの技量もさることながら、彼は技術だけではなく、感情を操り伝えてる点にあるだろう。まるで会場全体が彼の言葉によって揺れ動くようなそんな印象を受けた。

  その後フィリップ氏の周りは黒山の人だかり、もちろん一流の人間が彼の周りに集まっている。
「この中に割って入るのはどうしたらいいだろうか?」

  しかし、何も解決策が浮かばないままひたすら待つことにした。いつかは人も減るだろうと淡い期待を寄せながら。

  壁の花、もちろん私は男性なので花にもならないが仕方ない待つしかないんだ。

  人がひとりふたりといなくなり、フィリップ氏の周りにも人がいなくなっていった。

「今がチャンスだな。」 

フィリップ氏の元へと一直線、ふかふかの絨毯を踏みしめながら、彼のもとへ。

すぐ目の前にあのフィリップ氏がいた。
意思の強そうな眼に、知識人のような柔和な雰囲気、そして、圧倒的なオーラ。
目が合う。私の第一声は、
「先ほどのスピーチ、大変勉強になりました。特に発展途上国にもチャンスをというところは感銘を受けました」
「ありがとう、私は本来こういうパーティは好きじゃない。ここにある食事、会場費、人件費、その他もろもろのかかったお金を貧しき人々に送るほうがよっぽど有益だと思ってるくらいだからね」
「ところで、君名前は?」
「失礼しました、芝電機工業の武田譲二と申します」

その後は、「会話の達人」たるフィリップ氏の巧みな会話によって私はかなり気持ちよく話せた。確かプロフィールには日本語多少と書かれていたが、ほぼネィティブの日本語に近い。会話の引き出しは豊富、適度に自分の話をして飽きさせない。相手の話もちゃんと聞く。

そんなこんなで、パーティはお開きになった。
「フィリップさん、今日は貴重なお時間ありがとうございました」 
「そんなことは気にするな、こちらこそ楽しかったよ」
「ところで、君は健康問題について興味があるか?」
「はい、まあそれなりにはあります。自分のことですから」 
「君さえ良かったら今度是非健康問題について話合おう」
「はい、それは喜んで!」

  一応フィリップ氏との対談は上々に終わった。これなら課長も文句は言わないだろう。
  次の約束まで取り付けたわけだから。

「フィリップ氏と次の約束をこぎつけた?そりゃあでかした。よくやった。」 

まさかあの社内では鬼軍曹と呼ばれる課長に褒められるとは、この時ばかりは自分で自分を褒めてもいい気分だった。