ゆーすけのブログ

思いつき小説

確認

  その日は金曜日だった。得意先回りを終えた私は大手コーヒーチェーンにて一服していた。その日は例のパーティに出席する予定だった。もう一度、件の人物のプロフィールをチェックする。
「すごい大物の担当になってしまったな…」
  そのファイルには柔和ながらも、眼光の鋭い品のいい老人がいた。
  フリィップ・ゲラー、64歳、男性、ユダヤ系アメリカ人、不動産会社フリィップグループの創立者にして現会長。中古車セールスマンから一代にして、ショッピングチェーン、ホテル、倉庫事業、アウトレット等の不動産コングリマリットを創り上げる。
つまり、典型的なアメリカ的成り上がり。
離婚歴、犯罪歴なし、配偶者死別、子供なし。日本語、中国語多少。フロリダ在住。大の日本好き。
別名「会話の達人」、「セールスのマエストロ」

  そこで、私は先日課長に言われたことを思い出した。
「今回、彼の来日の目的は何だと思う?」
「さあ、フリィップグループの日本進出の視察ですか?」
「もちろん、それもある。近年の日本のアウトレット事業は目を見張るものがある」
「では他に意図があると?」
「それなんだが、どうやら彼は引退を考えてるようだ。そこで、フリィップグループの次期後継者を探していると」
「なるほど、そのパーティで次期後継者の発表があるとそういうことですね」
  課長は不敵な微笑を浮かべて言った。
「しかし次期後継者の発表があるのはいつかはわからん。一年後かも知れないし、来週かも知れない。そこでだ、その発表の前に彼に気に入られろ」
「次期後継者の発表の前に彼に近づき、次期後継者を紹介してもらうと解釈してよろしいですか?」
「我が社の北米事業は今競合他社との争いもあって相当苦しい立場にある。特にエレベーター事業部、君だって少しはわかってるだろ?」
まあ、それはね、わかってますとも。
「フリィップグループと我が社のエレベーター事業部がもし取引段階まで持ち込めたら、我が社の北米事業部も少しは展望が見えてくる。だから次期後継者に近づくために、フリィップ氏に気に入られろ」

  本来、30代の一社員がこのような仕事がまわってくるはずがない。せめて役員か社長クラスの人間がいくべきだろう。そう抗弁したらあっさり

「業務命令だ、やれ」

そうですか、私のような不良中年社員でいいんですか、やれやれ。

「あと、君にはサポートで君の後輩の野々村をつける。二人でなんとかやるんだ」

少しは安心した、元気溌剌の明るい野々村がいれば少しは糸口が見つかるかな。
と思った矢先

「先輩、ごめんなさい。今日立て込んでまして厳しいです…本当に申し訳ありません」

「……」
もちろんこのあと説教したのは言うまでもない。というわけで一人で行くことになった。徒手空拳。

さあどうなることやら。